新型コロナウイルスで大学は潰れるのか?大学職員に必須の大学財務のミカタ
新型コロナウイルスの影響で、全国の大学のほとんどが春学期は対面授業を行わず、オンライン形式での授業に切り替えています。
その影響もあり、大学生からは「授業料の返還」や「施設使用料の返還」の声が多く挙げられています。それを受けてか、大学独自の奨学金制度やオンライン授業を受ける環境を整備するための給付金を出す大学が増えてきています。
定員割れを起こしている私立大学が3割以上もあるなかで、給付金等を出せるかは各大学の経営体力によって異なり、体力のない大学は給付金等の制度を作るのは難しいと思います。
今回はそんな大学の経営状況を見る指標を簡単に説明していきます。大学職員を目指している方は、自身が就職した後に大学が潰れてほしくないと思うのがあたりまえです。
- あなたの大学の経営状態の区分は何ゾーン?
- 教育活動資金収支差額は大学のキャッシュフロー
- 外部負債をどれだけ抱えているか
- 修正前受金保有率100%未満かどうか
- 正常状態の最後の砦「経常収支差額」
- 単年度だけではわからない大学財務
あなたの大学の経営状態の区分は何ゾーン?
学校法人の経営状態の把握には、日本私立学校振興・共済事業団が公開しているデータを確認するのが一番わかりやすいです。
私学事業団のホームページに「定量的な経営判断指標に基づく経営状態の区分(法人全体) 平成27年度~」が公開されています。
この資料の中では以下の4つのゾーンに区切られています。
- 正常状態(A1~A3)
- イエローゾーンの予備的段階(B0)
- イエローゾーン(B1~C3)
- レッドゾーン(D1~D3)
それでは各ゾーンに区分されるポイントを説明していこうと思います。
教育活動資金収支差額は大学のキャッシュフロー
どの区分に進むかまず初めに該当する項目が「教育活動資金収支差額が 3か年のうち2か年以上赤字である」です。
教育活動資金収支差額とは大学の教育活動のお金の動きにフォーカスをあてたもので、「学生からの授業料等の収入(教育活動収入)」から「人件費等の支出(教育活動支出)」を引いたものになります。
この図では教育活動収支差額はプラスになりますが、支出の幅が収入の幅を超えると支出超過になり、マイナスとなります。
これがマイナスということは、収入としてある学費等よりも、人件費や教育研究経費等の支出が超過していることになり、大学の本業である教育で利益がでていないことになります。
これが3か年のうち2か年以上赤字になると、B3以下が確定になるため、大学の経営状況を判断する大事な指標だということがわかります。
大学の財務状況は各大学のホームページで確認することができますので、気になる大学の財務諸表を見てみるとより理解が進むと思います。
外部負債をどれだけ抱えているか
続いての項目が「外部負債を約定年数又は 10年以内に返済できない」です。外部負債とは「借入金」「学校債」「未払金」「手形債務」 の合計です。
実はこの項目については判断が難しいです。
負債の金額は貸借対照表や財産目録で確認できますが、どれくらいで返済できるかは外部からは判断しようがありません。
負債はどこの大学でも必ずありますので、資産に対してあまりにも負債の割合が大きくなければ問題ないです。
修正前受金保有率100%未満かどうか
この項目は計算式が公開されています。
「修正前受金保有率=運用資産 ÷ 前受金」です。
運用資産とは「現金預金」「特定資産」「有価証券」の合計です。
この運用資産を前受金で割ったものが100%未満だとイエローゾーンになります。
ようは、運用資産のすべてが先に集めた学費より少ないのはダメということです。
※特定資産とは使用する用途が決まっているお金のことで、退職金等を確保するために貯めている資産のことです。
※前受金とは翌年度に入学する学生から徴収した学費等のことです。新入生については入学する4月より前に学費を徴収するため、会計処理上前受金になります。
正常状態の最後の砦「経常収支差額」
正常状態に進む最後の項目が「経常収支差額が 3か年のうち2か年以上赤字である」です。
経常収支差額とは、大学の本業である教育の収支差額である「教育活動収支差額」と本業外の収支差額である「教育活動外収支差額」の合計です。
わかりやすく図にすると以下のようなイメージです。
教育活動外収支は基本的に利息がメインになるため、この部分が赤字になることはほとんどありません。
そのため、この項目までたどり着いている大学のほとんどは黒字になっていると思います。ここをクリアすれば正常状態に分類されますので、一安心です。
単年度だけではわからない大学財務
この指標からもわかるとおり、大学の財務状況は単年度だけではわかりません。
実際の財務諸表にはもっと細かくいろいろな項目が掲載されていますが、まずはこの数字だけわかれば十分です。
今後、大学を選ぶ際にこのデータをひとつの指標にして選んでみると、すぐにつぶれるということはないと思います。